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ケイスリー株式会社

神奈川県SDGsインパクト評価シンポジウム開催報告 :『SDGs×評価×金融の実践』~SDGsへの貢献を「見える化」し、資金循環を加速させるには~

更新日:2020年9月25日

 2019年3月25日(月)、神奈川県主催「神奈川県SDGsインパクト評価シンポジウム『SDGs×評価×金融の実践』~SDGsへの貢献を「見える化」し、資金循環を加速させるには~」が開催され、200人以上が来場した。弊社は、本シンポジウムの共同企画・運営を担った。


 本シンポジウムの主な目的は、内閣府が選定した2018年度の「自治体SDGsモデル事業※」の一つである、神奈川県「SDGs社会的インパクト評価実証事業」の成果の共有と、その先に見据える「SDGs×評価×金融」のエコシステム形成に向けた議論であった。


※2018年6月、内閣府はSDGsの達成に向けて優れた取組みを行う29自治体を「SDGs未来都市」に、また、そのうち特に先導的な10の取組みを「自治体SDGsモデル事業」に選定


【開催概要】


日時:2019年3月25日(月) 14:00 - 17:40(開場13:00)

場所:ワークピア横浜 おしどり・くじゃく (神奈川県横浜市中区山下町24-1)

主催:神奈川県

後援:地方創生SDGs官民連携プラットフォーム(調整中)、社会的インパクト評価イニシアチブ

事務局:ケイスリー株式会社

対象者:主にSDGsを推進する行政関係者、事業者、金融関係者 等

定員:200名

参加費:無料


【プログラム】

14:00-14:05

開会挨拶

首藤 健治氏(神奈川県 副知事)


14:05-14:25

基調講演 「SDGsと金融行政」の考え方 ーリスク・リターン・インパクトの観点からー

池田 賢志氏(金融庁 チーフ・サステナブルファイナンス・オフィサー)


14:25-16:00

第1部:かながわ発SDGsインパクト評価

プレゼンテーション「事例から創るSDGsインパクト評価実践ガイド」

今尾 江美子氏(ケイスリー株式会社 ディレクター)

パネルディスカッション「SDGsインパクト評価の構築・活用・普及に向けて」

今田 克司氏(一般財団法人CSOネットワーク 代表理事)

岩本 真実氏(K2インターナショナルグループ NPO法人ヒューマンフェローシップ 代表理事)

志波 崇裕氏 (Fujisawa SST協議会 [パナソニック株式会社 ビジネスソリューション本部])

関 良一氏(アルケア株式会社 ヘルスケア事業部 部長)

山口 健太郎氏(神奈川県 理事(いのち・SDGs担当))

米原 あき氏(東洋大学 社会学部 教授)

若林 賢彦氏(株式会社横浜銀行 総合企画部企画グループ グループ長)

落合 千華氏(ケイスリー株式会社 取締役COO) ※ファシリテーター


16:10 – 17:35

第2部:SDGsインパクト評価と社会的投資のエコシステム

パネルディスカッション「非財務情報を「見える化」し、社会的投資を加速させるには」

池田 賢志氏(金融庁 チーフ・サステナブルファイナンス・オフィサー)

江口 耕三氏(株式会社キノファーマ 取締役CFO)

河口 真理子氏(株式会社大和総研 調査本部 研究主幹/NPO法人日本サステナブル投資フォーラム共同代表理事)

工藤 七子氏(一般財団法人社会的投資推進財団 常務理事)

西村 克俊氏(株式会社三井住友銀行 成長産業クラスター ユニット長)

幸地 正樹氏(ケイスリー株式会社 代表取締役) ※ファシリテーター(SDGs投資動向の紹介等を含む)


17:35 – 17:40

閉会



 開会挨拶では、神奈川県副知事首藤健治氏より、「一人ひとりの「いのち」が輝く、そのためにまずは金融が変わること、そのための評価のシステムが変わることが必要である。」「世の中のためにいいこと(事業や取り組みなど)を社会全体が支えること、イノベーションに必要なことは『常識が変わる』ことである。そういう社会を一緒に目指すことがSDGsの取り組みだと考えている。」と、神奈川県が本事業を実施する狙いが述べられた。


金融行政でリスク・リターン・インパクトの3次元を描く


 金融庁池田賢志氏による基調講演では、金融行政の観点からSDGsへの取組みが紹介された。SDGs達成に向けては、公的資金だけでは不足することが既に明らかであり、民間を含めたより大きな資金循環を生み出すために、金融が果たせる役割は大きいという背景が、まず強調された。特に金融庁では、「リスク・リターンの改善を通してSDGsに貢献していくというビジョンを示している。」とした上で、「これまで方法論が確立されてきたリスクとリターンの関係に、どのようにインパクトを取り込んでいくか。現状では、リスク・リターンと切り離されてインパクトが語られているが、リスク・リターンとインパクトの結びつき、具体的な関係を描くことで、投資側は3次元の観点で良いものに投資をしていくことができる。」と、リスク・リターン・インパクトの軸をいかに統合していくかが今後の重要な課題になることが指摘された。




第1部:かながわ発SDGsインパクト評価


SDGsインパクト評価実践ガイド


 事業概要の発表では、「SDGs×評価×金融」のエコシステムを形成に向けた今年度の成果と今後の課題が共有された。エコシステム形成に向けたポイントは2つ。1つはSDGsの観点から評価(社会的インパクト評価)を行う「SDGs×評価」の手法をつくること、もう1つはさらにそれを介した資金の流れをつくることだとした上で、今年度は、その第一歩として、「SDGs×評価」の手法について、5つのフィールド実証を基に、「SDGsインパクト評価(※)実践ガイド(以下、評価実践ガイド)」を作成したことが発表された。


※「SDGs×社会的インパクト評価」のことを、本事業では便宜上「SDGsインパクト評価」と名付けている。




 特に、評価実践ガイドでは、評価を通して「活動の成果を定性的・定量的に「見える化」することに留まらず、評価で得た結果を活用して、事業の改善や新しい事業の創造、関係者間での対話につなげていくことに意義がある」こと、さらにそこにSDGsの理念を取り入れることで、「①ありたい未来からの逆算(バックキャスティング)が可能となること、②経済・社会・環境を包括する考え方がもたらされること」といった利点が強調された。


パネルディスカッション:SDGsインパクト評価の構築・活用・普及に向けて


 第1部では、本事業のフィールド実証に事業者として関わった事業者の視点と、SDGs、評価、金融の専門家の視点から、「SDGs×評価」の意義や、今後の普及に向けた対策や課題が語られた。


事業者の視点


 実証フィールドとなった事業は、不登校・ニート・引きこもり、様々な障がいにより自立に困難を抱える若者たちへの就労支援を行う事業、高齢者向けのロコモ予防の事業、産学官民一体で行われる「藤沢SST(Sustainable Smart Town)」というまちづくり事業であった。


神奈川県委託事業「社会的インパクト評価実証事業」報告書より抜粋


 まず、事業者にとっては、事業をSDGsと結び付けることで、「事業価値を広く捉え直すことができる」、「事業の優先度付けができる」など、多様なメリットが挙げられた。


「(SDGsとの結び付けにより)我々の強みは別のところにあると思っていたが、それがまちづくりなどにもつながっているなど、事業を多面的に評価してもらう機会になるとの期待もあった。その他にも、SDGsがスタッフとの共有の話題となったことが面白かった。(岩本氏)」


「SDGsの観点が入ることで、行政との共通言語となる公益性の観点を持てた。企業はどうしてもプロダクトアウトの発想になるので、医療経済性だけでなく、どういう社会的なゴールを目指せるのかがクリアになった。また、高齢社会という誰も経験したことのない課題で、SDGsゴール9(産業と技術革新の基盤を作ろう)のスコープに当てはまることが新たな気づきだった。(関氏)」


「SDGsの観点を入れることで2つの気づきがあった。①藤沢SSTに住んでいる住民と新しいサービスづくりを行なう際、SDGsを通して同じ目線で会話することができる。②2030年から逆算して考えることで、取り組みがどこに向かっているのか、数多くある内、それぞれのプロジェクトの成果や優先順位が明確になることである。また、SDGsの169ターゲットのうち、紐づくものは案外少なかった。ターゲットにどう紐づけていくのか、本当に紐づけないといけないのかを議論をすることで、SDGsの考え方を深められたことが大きな成果である。(志波氏)」


 また、評価実施を通して、「成果の言語化により事業者間協議が進んだ」「実際に事業改善につながった」などの成果も挙げられた。


「以前参加した評価事業をきっかけに日々の業務のデータ化など「見える化」は進めていた。今回は評価を通して事業の見直しにつながるなど、実際の成果があり、ステップアップしてきていると思う。伴走者とも濃い議論ができた。(岩本氏)」


「藤沢SSTの『100年持続する街を』というキャッチフレーズ実現に向けて具体的に何をすれば良いか、アウトカムを明確に持っていなかった。事業者間で協議をしてアウトカムを明確にできたことが一番よかった。(志波氏)」


 一方、今後も評価を通じた事業改善を続けていくに当たっての課題として、評価を行うための専門性や人材の不足などが挙げられた。


専門家の視点


 昨年12月に神奈川県とSDGs推進協定を締結した横浜銀行の若林氏からは、「SDGsという共通言語を介して、事業者の取り組みや評価が普遍的なものになる。従来は財務諸表など企業の過去の実績を評価して資金協力を行ってきたが、そこに欠けていたのは、今後の成長性などを適切に理解し評価することで、成長を支援していくという発想である。」「金融機関にはハンズオン支援など継続的に関わる伴走者としての立ち位置が求められることもあり、本事業でいう評価の伴走者の役割も担えるだろう。」と、地域金融機関が伴走者として「SDGs×評価×金融」の推進を担う可能性が示された。


 今田氏からは、SDGsの「頭と手、心を動かすこと」、「変革すること」、「Partnership」という概念の大切さが強調された。


「評価実践ガイドを使って実際にやってみること、頭と心を動かし考えることが大事。これをやらないとSDGsに取り組んだことにならない。SDGsの思想としてTransformation(変革)がある。バックキャスティングで考えて必要な目標を達成するには、我々の常識を疑い、何を変えられるかを考えないといけない。」「Partnership(パートナーシップ)の観点では、『自分たちで全部やろうとしない』ことが大事。各セクターのどこに、共通の課題を持つ人たちがいて、どんなリソースを持っているかを考えることが求められる。」


 米原氏からは、特にSDGs×評価と金融の文脈をつなげていくことに関して、「質的データ、主観指標の扱い方」、「対話的合理性」の重要性が指摘された。


「この事業の貢献の一つは、無形の価値を可視化してエビデンスとしての資格を与えたことだと考えている。一方で、それが金融機関にとって説得力のある情報になっているかは今後の課題」「SDGsを活用することで、非財務情報を可視化し、事業者の目標を正確に理解することが可能になるのではないか。一方、資金提供側も評価のフレームワークを変革させ、質的なデータや主観的な指標といった、これまでとは違う物差しをいかに入れていくかが課題。主観と客観のグレーゾーンは広がっており、そこに評価の専門家が介入する意義がある。」「協働のあり方は、20世紀型の『目的的合理性』から、相手を理解することを目的とする『対話的合理性』(相手が何を求めているかを理解することを目的に据えて、その上で相互の納得・理解を得て目的に達する)へシフトしつつある。SDGs達成に向けたパートナーシップは、いろいろな人との協働がフラットな状態で成り立っていることが重要。」


 最後に山口理事から「今年度作成した評価実践ガイドをより簡素化・簡便化して多くの人に使ってもらいたい。市民にSDGsの考え方そのものを広め、社会に浸透させていきたい。インパクトレポートを資金提供者だけでなく、広く社会に発信していく、そんな空気・土壌を神奈川県からつくっていきたい。」と今後の意気込みが語られた。


第2部:SDGsインパクト評価と社会的投資のエコシステム


 第2部では、「SDGs×評価×金融」の仕組みやエコシステム形成について議論された。​



資金の出し手の視点


 工藤氏からは、金融だけでSDGsを達成するのは困難であり、社会全体でお金の流れを変えていくことの必要性、評価×金融を進める上での「標準化」に係る課題が指摘された。


「インパクト投資などの投資家だけで課題を解決することはできず、例えば神奈川県全域で特定の課題解決を考えるとき、インパクト投資家が埋められる部分がそのうちどこにあるか、それ以外の部分をどうするか、といった協働のあり方を考えられる対話の場が必要だと考える」


「ファンドや投資家にとっては評価の手法やプロセスなどを標準化していくことが必要である。しかし、指標まで標準化するのは難しく、かつその弊害も大きいと感じている。インパクト投資の投資先事業は、ESG投資の投資先事業に比べ、その領域で革新性が高いことを価値とするケースが多い。標準化された指標で測って総合得点が高いものに投資をすることは、革新的なものに投資をするというインパクト投資の本来の性質と矛盾が生じる。」


 河口氏からはESG投資専門家の観点で、市場原理の中でSDGsを達成していく難しさと可能性が語られた。


「金融でLeave no one behindを考えることは非常に難しい。市場経済が前提としているのは、競争で負けた弱者は置いていくという真逆の考え方である。そのため金融でLeave no one behindを考えることが、いかに大変なことかを理解する必要がある。しかし例えば、人件費が安い児童労働や、原価が安い違法木材を使っている場合、取引先の政府がSDGsを掲げて児童労働や違法木材を禁止するリスクがある。SDGsはその意味で共通言語となり、社会全体を変える可能性がある。その中で投資家の目線も変わらざるを得ない。」


 西村氏からは、「評価を広げていくには、非財務情報をいかに「見える化」するかが鍵となる。投融資の世界では以前は格付けがなく、ヒト・モノ・カネの定性情報で判断していた。バブルの頃に格付けが普及しはじめ、今度はAIが入ってきた。ここにいかに非財務情報を織り込むかが課題である」と課題認識が共有された。


資金の受け手の視点


 株式会社キノファーマは創薬ベンチャーであり、「SDGs×評価」を活用して資金調達をめざす事業者である。子宮頚がんはウィルス性の感染によって起こるが、ウィルス感染後の薬がなく、ここをターゲットとして取り組んでいる。資金調達に当たり、自分たちの社会的価値を表現するのに、社会的インパクト評価に着目した。その効果を次のように語った。


「1つ目は共感してくれる人が格段に増えたことがある。投資の話が短時間で進むようになった。女性自身はもちろんだが、娘のいる男性や、彼らから紹介してもらう人が増えた。現在では、いろいろな結びつきができ、コレクティブインパクトを目指そうという動きになっている。2つ目は、海外との結びつきが出来たことである。子宮頚がんは、特にアジア・アフリカで問題になっているが、現在そういった地域に投資する2つのファンドと話している。」


「SDGs×評価×金融」の可能性


 SDGs達成に向けて金融が果たす役割については次のように語られた。


「SDGs達成の文脈では、ボトムアップとトップダウンの両方のアプローチが必要。ボトムアップで様々なチャレンジをしていくことは大事だが、同時に、行政側で大きなゴールに向かってトップダウンでフラグを立てる、コレクティブインパクトの計測をしていくなどのトップダウンの取組みも求められる。各ファンドや各事業者それぞれの現場でインパクトを最大化していく部分最適だけでなく、全体でインパクトを最大化していく全体最適の観点も必要である。(工藤氏)」


「投資の際には自分のお金がどう使われるか、寄付の場合は寄付した自己満足で終わらずにそれがどう使われるのか、お金の出し手の価値観を変えていくことも必要である。その一番わかりやすいツールが評価だと言える。我々は国民年金や国民健康保険などを通じて、機関投資家の運用する資金につながっている。国民の意識が変われば運用者も変革を求められる。そうしてお金の流れが変わっていくといい。(河口氏)」


「金融機関は、伴走者、事業者、資金提供者のどれにも当てはまる立場であり、果たせる役割は大きい。その認識のもと、我々も理解を深めていきたい。(西村氏)」


「インパクトとリスク・リターンがどう結びつけられるかという問いを自らに投げかけていき、インパクトの改善がリスク・リターンの改善につながるというロジックを見つけていきたい。(池田氏)」


 本事業の意義は、これまで別々に語られていた評価と(課題解決のための)資金の流れを、「SDGs×評価×金融」という枠組みの中で、いかに融合させていくか、その具体的な取組みに着手した点、そして、それに向けた、事業者、資金提供者、評価者、研究者、行政をまたぐマルチステークホルダーの議論・対話を促進した点にあると考えている。弊社は、今後もこの取り組みを前進させ、「SDGs×評価×金融」の具体的な事例づくり、普及に取り組んでいきたい。





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