2019年12月3日、パシフィコ横浜にて神奈川県SDGsインパクト・マネジメント セミナーを開催しました。神奈川県が進めるSDGs×評価×金融に向けた取り組みの紹介や、SDGs社会的インパクトと金融との接続についてパネルディスカッションを行いました。
会場には企業の方を中心に90名近くの方にお越しいただき、「SDGs社会的インパクト・マネジメント実践事例」に関するパネルディスカッションや、「SDGs×評価×金融」をテーマにしたワークショップを行いました。
◆開会挨拶:神奈川県 山口理事
社会的インパクト評価について、事業者の視点と金融の視点がいかに交わるかが今日のテーマです。単に評価をして社会的な価値が可視化されるだけでなく、評価を行うことで本業の成果も上がっていくという事例を神奈川県から生み出せたらと考えています。
◆プレゼンテーション「SDGs×評価×金融に向けた取り組み」:ケイスリー代表取締役 幸地正樹
昨年度は「SDGs×評価」について実証事業を行いつつ、誰もが社会的インパクト評価を行えるような「評価実践ガイド」作成しました。また社会的インパクト評価×金融の視点から、国内外の事例調査及び課題等の整理を行いました。今年度は「SDGs×評価×金融」というテーマで実証事業を行いつつ「評価実践ガイド」の改訂を行っています。
そして社会的インパクト・マネジメントを実践できる人材を育成する為に5ヶ月間、計10回の「神奈川県SDGs社会的インパクト・マネジメント実践研修」を実施しています。ここでは事業者・支援者・資金提供者の三者が一緒に、社会的インパクト・マネジメントを実践を通じて議論し、学ぶ場となっています。
◆パネルディスカッション「SDGs社会的インパクト・マネジメント実践事例」
ケイスリー株式会社 今尾江美子(モデレーター):
3名の事業者、2名の金融関係者のみなさまと共にSDGs社会的インパクト・マネジメントについて議論していきたいと思います。そもそも社会的インパクト・マネジメントとは事業の社会的価値を見える化する取り組みで、それを事業者の皆様には実践いただいています。ここで使われる主要なツールがロジックモデルというもので、事業活動とSDGs(社会的インパクト)がどう結びついているのかを解明していくツールでもあります。
具体的には事業の活動、そこから生み出される成果(アウトカム)を矢印で結び、達成したい企業理念までどう繋がっていくのか可視化します。その上でアウトカムを測定できるように指標を設定し、測りつつ改善していくのが社会的インパクト・マネジメントとなります。 このロジックモデルを作った上で資金提供者との新たな対話につなげていく、というのが今回の取り組みです。
ではまず、登壇者の方々にどんな取り組みをされているのかご紹介していただきます。
株式会社TBM 羽鳥さん
弊社は石灰石からできる新素材で、紙やプラスチックの代替となるLIMEXという素材を開発しております。LIMEXを使用することによってプラスチックの使用量を削減し、神奈川県内ででるプラスチックゴミを減らしていくことが目標です。私たちは素材メーカーとして素材を作るだけでなく、実際に使っていただき、再利用のために回収する循環モデル(神奈川アップサイクルコンソーシアム)を組成しております。もちろん神奈川県に止まらず、この循環モデルを全国に広げていくために現在は実証事業という形で進めさせていただいています。
社会的インパクトマネジメントをやる意義は?
私たちの事業では50以上もの関係者の方々と一緒に取り組んでいて、それぞれの関係者のニーズを満たしていくことが課題でした。ロジックモデルとして紙に落とすことで、関係者たちの関わり方が整理されました。関係者側からも自分たちの活動がどのように社会に影響を与えているのか可視化されて、事業に対するやりがいがあると言っていただいています。
株式会社インターネットインフィニティー 杉本さん
弊社はヘルスケアの会社です。主にレコードブックというリハビリ型のデイサービスセンターを全国に180数店舗、展開しております。高齢者に来ていただきいて3時間みっちりトレーナーと一緒に運動を楽しんでいただき、介護予防、健康寿命の延伸を目的にしております。
社会的インパクトマネジメントをやる意義は?
弊社は既にロジックモデルと成果指標を設定し、これから指標を測定していこうという段階です。そもそもこの社会的インパクト・マネジメントを始めたきっかけは「健康寿命の延伸」ってどのように測ればいいのか?という疑問をもち、自分達で指標を作ってしまおうと考えたところからでした。ロジックモデルを作ることで測定すべき指標が明らかになりました。
上場後、どのような変化がありましたか?
上場する前から数字は追いかけていたのですが、上場してからはむしろ事業の内容について教えてくれと投資家から言われるようになりました。「財務諸表は見れば分かる。SDGsに対する取り組みについて教えてくれ」と言われることも多いです。
国際航業株式会社 今田さん
弊社はいま「自転車マナーポイント」を付与するアプリ開発をしています。自転車事故の大半は交差点で起こっているのですが、自転車利用者が交差点で一時停止したら「自転車マナーポイント」を付与し、そのポイントは商業施設等で利用できるという取り組みを行なっています。自転車利用者は交差点での停止を心がけるようになるし、商業施設にとってはそのポイント導入により集客効果が見込めるという仕組みです。
ー研修に参加した理由は?
2015年からこの事業を開始し、2016年に尼崎市で実証実験を行いました。そこから事業を続けていく中で、とにかく社内外の理解を得ることが難しいと感じました。この事業の意義をなんとか見える化したいと考えたのが研修参加の動機です。
実際に研修に参加してみてどうだったか?
まずロジックモデルを作成してみることで思考がすっきりと整理されました。また様々な角度からこの事業を眺めることでこういう見方もあったのかという気付きを得ました。そして何より事業の可能性を人に説得しやすくなりました。
モデレーター:ありがとうございました。続いて金融の皆様から見て、事業者がSDGsに取り組む意義や、各事業者の事業について気になる点を伺ってみましょう。
・かながわ信用金庫 木曽さん
国際航業株式会社さんが最終アウトカムに「地域の経済力の向上」という目標を立てていましたが、とても大事な点だと感じました。SDGs=持続可能な開発目標ですので、まずは国際航業さまの企業としての持続、ひいては地域経済の活発化に繋がることが大切だと感じます。
・日本ベンチャーキャピタル株式会社 照沼さん
弊社はスタートアップの未公開株に投資しています。30代くらいの若い起業家とお話しているとよく社会課題についての話が出て来ます。経営者のSDGsに対するスタンスは会社のビジョン・ミッションに直結していると感じますね。もちろんミッション・ビジョンだけでは投資はできないのですが、スタートアップへの投資に関しては優秀な人材の存在が重要で、昨今はなかなか人材が集まらない時代です。若い優秀な方達が「良い会社」を探そうとしたときに、その「良い会社」という定義にかなりビジョン・ミッションが響いていると感じます。
◆ 「SDGs×評価×金融」ワークショップ
パネルディスカッションに引き続き、参加者の皆様に社会的インパクト・マネジメントに関するワークショップを行っていただきました。以下の4テーマに別れてグループでの議論をしていただきました。どのテーマでも議論が白熱し、とても有意義なワークショップになりました。各テーマで挙げられた意見の一部をご紹介します。
⑴ 企業にとって、社会的価値を「見える化」する意義とは?
・企業等が「本当に目指していること」の本質を考えるため
・ビジョンを再発見するため
・活動全体を見える化することでステークホルダーの理解を得るため
⑵ 社会的インパクト・マネジメントがあらゆる企業にとって実践可能になるには?
・ロジックモデルや評価指標の概念を周知し、企業内部や企業経営者に意義を理解してもらう
・時間とコストをかけてでも社会的インパクトマネジメントを実施することのメリットを伝える
⑶ 社会的価値の「見える化」で,企業と金融の関係はどのように変わるのか?
・企業の事業内容や社会課題に関して共通言語を持てる
・新規事業計画や収益改善に関して、金融側から提案がしやすくなる
⑷ SDGs達成貢献に向けて金融ができること
・SDGsに関する投融資に必要な判断基準を明確に開示する
・SDGs達成に向けた金融コンソーシアムの組成
今回のセミナーは、神奈川県2019年度事業の中間発表に当たります。本日登壇いただいたみなさまには、引き続き本事業の中で実践を進めていただきます。そして2020年3月には、本事業の最終発表を予定しています。そこでまた一歩進んだ事例を紹介し、再びみなさまと議論できればと考えています。
こちらにも掲載しています:https://note.com/k_three/n/nf003c79b04b9
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