【導入事例:農林中央金庫様】「農林中金らしさ」を可視化し、現場の熱意に火をつける。現場が自ら考え、動き出すためのIMM導入・定着支援
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- 5 日前
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農林水産業の発展を支える農林中央金庫様は、パーパスである『持てるすべてを「いのち」に向けて。』の実現に向け、支店現場における地域課題解決に向けた事業活動への「社会的インパクト・マネジメント(IMM)」導入を推進されています。
インパクト投資の文脈で語られることが多いIMMですが、農林中央金庫様では「支店ごとの事業活動が生み出す価値の可視化」という独自の視点で活用されています。なぜ現場の活動にIMMが必要だったのか。そして、導入によって現場と本部の意識はどう変わったのか。本部および実践する支店(福岡・福島)へのインタビューを通じて紐解きます。
1.導入の背景・課題
Q. なぜ、支店の事業活動にIMMを導入しようと考えたのですか?
農林中金(本部):
農林中央金庫の支店では、各地域の実情に深く入り込んだ独自の事業活動(農林水産業のバリューチェーン強化や地域活性化など)が行われています。しかし、それらがどのような社会的価値を生んでいるのか、組織として何を目指すのかという「共通言語」や「評価軸」が曖昧でした。
本部としては、こうした現場の活動を経営戦略と接続し、組織として評価していくことが必要だと感じていました。社会全体でインパクト経営への関心が高まる中、当金庫の「農林中央金庫らしさ」を改めて問い直し、現場の活動を全社的なサステナブル経営戦略へとつなげる新たなフレームワークが必要でした。
しかし、定性的な活動をいきなり経営指標に組み込むことは容易ではありません。そこで、トップダウンで無理に接続するのではなく、まずは現場レベルで取り組みの価値(インパクト)を可視化し、ボトムアップで実績とエビデンスを積み上げることから始めるべきだと判断しました。そのための手段として、IMMの導入を決定しました。
2.支援のプロセス:ケイスリーは何をしたか
「やってみる」から「自分たちでできる」へ。現場の自走を促す伴走支援
本プロジェクトでは、単なる指標作成の代行ではなく、職員様自身がIMMを実践・活用できるようになるためのプロセス設計と伴走支援を行いました。
Phase 1:伴走支援による「型」の試行
まずは現場の取り組みを深く理解するため、IMMの試行に賛同した2支店(高松・大阪)を対象に、ケイスリー主導での伴走支援を実施しました。現場職員との対話やワークショップを通じて、「誰に、どんな変化を届けたいのか」を整理し、ロジックモデルの作成や指標設定をサポート。現場がどのような環境で、何を考えて取り組んでいるのかなど、取り組みの前提となる情報を含めIMMの設計を行うためのプロセスを共に作り上げました。
Phase 2:ガイドライン策定と「現場主導」への転換
Phase 1の知見を基に、全支店展開を見据えた「IMMガイドライン(ドラフト版)」を作成しました。
このフェーズでは、「ガイド(ドラフト版)を見ながら現場主導でIMMを推進し、ケイスリーはアドバイスに徹する」という形式へ移行。新たに手をあげた現場(福島支店など)が、実際にガイドを使ってIMMを推進する中で見えた「つまずきポイント」や「分かりにくい点」を洗い出し、ガイドラインをブラッシュアップしました。
現場の声を反映した「使われるガイドライン」へと磨き上げたことで、現場はもちろん、現在は本部のIMM推進担当者双方が活用しており、全国展開への土台が整いました。
Phase 3:組織主導での自走化
Phase 2で整備されたガイドラインとノウハウを基盤に、本部職員が主体となって各支店への伴走支援を行っています。 ガイドラインを用いて本部メンバーが伴走支援を行う現場向けワークショップなども進めており、組織内部で自律的にIMMを推進・拡大していくサイクルが回り始めています。

3.現場の実践事例
【事例1】福岡支店:「農業への人的支援」を「企業戦略」へ。1,000社を巻き込むための価値転換

取り組み
九州経済連合会、JA全農ふくれんなど多様なステークホルダーとの連携による「農業副業・ボランティア・研修」マッチング事業。企業の社員が農作業に従事することを通して、農家の人手不足解消、農業と食への理解を促進しています。
導入の背景・想い
取り組み開始から3年が経過し、実績は積み上がっていました。しかし、「効果が定量的に可視化できていない」というもどかしさがありました。 九州経済連合会の会員企業約1,000社へこの活動を広げ、より大きなうねりを作っていくためには、「なんとなく良い活動」ではなく、「企業にとっても地域にとっても、これだけの価値がある」と明確に語れるデータが必要だと考え、IMM実践の機会に手をあげました。
IMM導入による変化
価値の再定義:単なる「農家への労働力支援」と捉えがちだった活動が、ロジックモデルを議論する過程で、「参加企業側にも人材育成や地域理解というメリットがある」ということを再定義できました。これにより、活動を一方的な「社会貢献」としてだけでなく、企業にとっても有益な「機会の提供」として訴求するなど、価値の拡がりと絞り込みできました。
対話の深化:これまでは「参加人数」などの短期的な実績に目が向きがちでしたが、IMMを通じて「農業に関わった人が、その後どう農業と関わり続けるか」という中長期的な視点を意識することができました。連携先からも「抽象的だった活動の意義が体系的に理解できた」と評価され、次の展開に向けた議論の土台として機能しています。

課題
指標設定の難しさ:短期的な参加人数などは測定しやすい一方で、農業に関わった人の意識変容や、その後の人生での関わり方といった「中長期的なインパクト」をどう定量的に測り続けるかが課題となっています。
拡大へのアプローチ:IMMの実践をとおして議論の土台ができましたが、あくまでスタートラインです。今後、1,000社規模の会員企業へどうリーチし、インパクトを拡大していくか、IMMによって得られた成果を武器にアプローチを開始しようとしています。
【事例2】福島支店:関係者を「ひとつのチーム」に。地域インフラを守るための合意形成ツール
取り組み
耕畜連携:飼料価格高騰に悩む畜産農家と、水田活用に悩む耕種農家をマッチングし、地域内循環を作る取り組み。
無人販売ボックス:JA店舗統廃合が進む過疎地において、農業資材を「置き薬」形式で提供し、営農環境を維持する取り組み。

導入の背景・想い
実は、IMMへの挑戦は今回で2回目です。 前年度に取り組んだ「耕畜連携」で、ロジックモデルを使って説明することで関係者の納得感が高まるのを肌で感じていました。今回の「無人販売BOX」は、JAや農家、行政などさらに多くの関係者を巻き込む必要があり、利害調整も困難です。「この取り組みにはIMMが不可欠だ」と考え、関係者と円滑に調整を進めていくためのツールとして迷わず2年連続で手を挙げました。
IMM導入による変化
戦略的思考の定着:5年後、10年後の「あるべき姿(アウトカム)」から逆算して今やるべきことを議論できるようになり、戦略的な思考が現場に根付き始めました。
合意形成ツールとしての活用:JAや農家、行政など多くの関係者が関わる中で、ロジックモデルを用いて「この取り組みが地域の未来にどう繋がるか」を視覚的に説明し、協力を得るためのコミュニケーションツールとして役立てています。
課題
実務との接続:ロジックモデルで大きな絵を描いた後、日々の実務フェーズに入った際に、IMMツールを活用する頻度が下がってしまうという「日常業務との乖離」が課題です。
継続性の担保:人事異動が多い組織構造の中で、担当者が変わっても想いやロジックを引き継げる仕組み(組織知化)の強化が必要です。

4.組織の変化と課題
Q. IMMに取り組む中で、どのような変化や課題が見えてきましたか?
これまで本部と現場の間では、現場の「想い」や「定性的な成果」を共有しきれないもどかしさがありました。しかし、IMMの導入により、共通言語が生まれたことで関係性が変化しつつあります。
コミュニケーションの深化:単なる数字の共有だけではなく、「どのような地域課題を、どのような変化を起こすことで解決を目指すのか」という本質的な議論ができるようになりました。特に「支店で何かいいことをやっているのは分かっていたけど、発信できなかった」という課題に対して、情報共有がしやすくなったことは大きな進歩です。チャットツールなどを通じて本部に気軽に相談できる環境も生まれ、物理的な距離を超えた一体感が醸成されています。
伴走による信頼関係の構築:本部メンバーが実際に支店へ足を運び、膝を突き合わせてワークショップを行ったことが、現場からの信頼獲得に繋がりました。「本部から言われたからやる」のではなく、「共に良い取り組みを可視化する」というスタンスが、現場の自発的なアクションを引き出しています。
一方で、運用フェーズに入ったからこそ見えてきた課題もあります。こういった課題を乗り越えることで、真のサステナブル経営実装へと近づくと考えています。
継続性の担保:数年おきに人事異動がある組織構造の中で、担当者が変わるとせっかく培ったIMMの知見や熱量がリセットされてしまう懸念があります。属人化を防ぎ、組織としてノウハウを引き継ぐ仕組みづくりを進めていきたいと思います。
実務との接続:ロジックモデルは戦略の合意形成や対外的な説明には強力なツールですが、いざ実務的な作業フェーズに入ると、活用頻度が下がってしまうという課題があります。IMMの取り組みを業績目標に落とし込むなど、日常業務の中にIMMの思考を組み込んでいくなどの工夫も検討していきます。
5.今後の展望(農林中央金庫様)
現場の実践を積み重ね、サステナブル経営の深化を目指す
今回の取り組みを通じて、現場レベルでの可視化や意識変革の手応えは掴めつつあります。
しかし、当初からの課題であった「経営戦略との接続」は、依然としてこれから取り組むべき大きなテーマです。
私たちが目指すのは、単に新しい手法を導入することではありません。人事異動があっても取り組みの想いや戦略が引き継がれるよう組織知化を進め、職員一人ひとりが「自分たちの事業が農林水産業や地域にどのような価値をもたらすか」を当たり前に語れる組織風土を醸成することです。
収益性の追求だけでなく、社会的インパクトも同時に追求する。この両輪を回すことで、農林水産業と地域の持続的発展に貢献するサステナブル経営を、より高いレベルで実現していきたいと考えています。
【お問い合わせ先】
ケイスリーは行政・民間問わず、インパクト測定・マネジメント(IMM)の専門家として多くの実績があります。インパクト測定・マネジメント(IMM)の導入やサステナビリティ経営の推進にお悩みの方は、ぜひお気軽にご相談ください。
農林中央金庫様のIMMの取組みについてはこちらのリンクもご参照ください。


